大学教育学会





会長挨拶

大学教育学会大会(桜美林大会)から課題研究集会へ
「大学教育の質とは何か─ふたたび大学のレゾンデートルを問う」で提起された課題

会長 小笠原 正明

大学教育学会第33回大会は、201164日から5日まで、「大学教育の質とは何か─ふたたび大学のレゾンデートルを問う─」というテーマのもとに、桜美林大学で開催された。参加者(登録者)数は605名に達し、2009年度の首都大東京における大会に匹敵する規模となった。初日のオリエンテーションを皮切りに、シンポジウム、基調講演、ラウンドテーブル、自由研究発表が熱気あふれる雰囲気のもとに行われた。初日は桜美林大学多摩アカデミーヒルズ、2日目は町田キャッンパスを会場として行われたが、それぞれ地の利を活かした設営で、参加者は特に不自由を感じることなく大会の行事に集中することができた。桜美林大学の大越孝副学長をリーダーとする実行委員会の精鋭部隊をはじめとして、本大会の成功のため尽力されたすべての方々に心からお礼を申し上げたい。

次の課題研究集会まであと三ヶ月を切ったことから、ここでは6月の大会を振り返りながら高等教育における問題の所在を明らかにして課題研究集会への接続を試みたい。

■課題研究集会からの流れ

本大会では〈人生の時間的なスパンという観点や社会のありようをも視野に入れたうえで、大学教育が保証すべき質の問題を考えたい〉(坂井昭宏企画委員長)という趣旨のもとに、シンポジウムⅠ「現代における生涯発達と大学教育」及びシンポジウムⅡ「大学教育における質保証の実践的展開とその意味」が組織された。桜美林大学の佐藤東洋士学長の基調講演「何のための、誰のための質保証」は、シンポジウムⅡの問題提起ないしはプレビューとも位置づけられる。

先の課題研究集会では「キャリア形成における大学教育」の問題が提起された。この流れからいうと、本大会のシンポジウムⅠでは、生涯発達における大学の役割をより具体的に示すことが期待されていた。またシンポジウムⅡでは、同じく先の課題研究集会における2つのシンポジウム「構築中の学士課程教育」「共通教育のデザインとマネジメント」で提起された問題が引き継がれていると考えて良い。実際に、本大会ではどのような進展が見られたのだろうか?

■ライフサイクルを視野に入れた高等教育

ライフサイクルを視野に入れた大学教育論では、昨年、田中毎実氏が提案した多様な年齢集団が共存する高等教育機関を想定した〈新たな学問共同代の編成〉とその内容が一つの焦点になっている。新たな学問共同体の試みとして、足立寛氏が報告した「立教セカンドステージ大学の試み」では、シニア層の生涯学習への意欲が大きいこと、伝統的な学生(若い学生)の学びに良い影響を与えていること、単なる知識ではなく体系的な学びの神髄を知りたいと思って入学してくるシニア層が多いことなどが注目された。まだ採算がとれず〈社会貢献〉の段階にとどまっていること、忙しい現役とリタイア層のどちらをターゲットにするか絞り込まれていないことなどが問題としてあげられた。

教育内容については、筒井洋一氏が一つの例として京都精華大学「日本語表現法」の取組を報告した。(なお、筒井氏の報告は予稿集に掲載されたものとタイトルも内容も違っているが、ここでは実際の報告に即して説明する)。20年近い実績を持つ「読み」「書き」「話し」「聞く」ための実習型授業をさらに強化して、専門家による系統的な教育を行っている。チューター、チームティーチング、ライティングセンター等の支援により、科目横断的なライティングの授業を目指している。シンポジウムのテーマとの関連で言えば、社会における学習共同体を意識しているところがポイントだろう。学外で開催されるプレゼン大会、インターンシップ、企画提案など社会課題解決のための現場体験が重要で、〈地域や社会の中で学生が育つ〉ことを実感しているという。

次世代型の高等教育を先取りしたプログラムや授業の例が具体的に示されたのは進歩である。今後、引き続いて、このようなプログラムやコースを含む次世代型の学士課程・大学院課程の編成及び組織原理を明らかにすることが期待される。

■大学における質保証

シンポジウムⅡの冒頭の2つの報告は、本年4月に学校教育法改正により義務付けられた教育情報の公表を前提としていると考えれば分かりやすい。佐藤浩章氏は「3つのポリシー策定と一貫性構築によるカリキュラムの質保証」で、組織体制づくりからカリキュラム・ポリシーの策定まで、段階を踏んだ質保証の構築法をFDと関連づけて半ばマニュアル化された形で提案した。山田剛史氏は「学生調査の開発とマルチレベルFDとの連動による教育の質保証」で、FDというものが一律に論じることのできないローカルな〈文脈固有性〉を持つことを強調し、学生調査(アセスメント)と連動した教育改善・改革が必要だと述べた。この2つ報告は相補的な関係にある。これに去年の課題研究集会で報告された到達目標型教育プログラムやカリキュラム構築のためのコンセプトマップの報告を合わせると、今日の学士課程の質保証の流れが理解できる。

しかし、質保証の現場は実はもっとなまなましい。「GPA制度本格導入と成績評価を考える」で筒井泉雄氏は、機械的に目標GPAを取得できなかった学生を退学にしていくと大学制度そのものが成り立たなくなること、偏差値の高い大学でも修学とメンタルケアの問題をかかえている学生が予想より多いことなどを率直な態度で語った。問題は、学部や教員により成績評価についての考え方が違いすぎることにある。

この問題に関連して、フロアから学びたいことだけを学ぶことができた自分の学生時代の話があり、一定の聴衆がこの発言に賛同の意を示していた。古き良き時代へのノスタルジーだけではなく、昨今のカリキュラム・ポリシーや質保証の動きを快く思わない教員の気持ちが表に出た場面でもあった。しかし大学教員のマジョリティーがこれらの問題を高等教育における内在的な問題と考えず、外からの圧力とのみ捕らえているとすれば問題の根は深い。このような意識のずれを何とかしなければ、日本の高等教育における本質的な進歩は期待できないのではないかと評者は感じた。

■今後の課題と課題研究集会への期待

33回大会の発表演題数は自由研究発表84題、ラウンドテーブル18題、基調講演1題、シンポジウム2題であった。自由研究の発表数は31回大会と同数で史上最多、ラウンドテーブルは単独で史上最多を記録し、大会の根幹部分がしっかりと成長していることを示した。ラウンドテーブルは、1997年の課題研究集会(亜細亜大学で開催)の掉尾を飾る全体会〈新しい大学教育への共同的な取り組みを拓く〉における呼びかけに起源を持つ本学会独特のセッション・スタイルである。近年、数においても内容においても急速に成長し、今では大会行事のかなりの部分を占めるようになった。今後、ラウンドテーブルで提起された研究課題を、学会全体の取り組みへと発展させる仕組みと財政的な支援が必要となるだろう。

来る11月26日から2日間、山形大学で開催される課題研究集会では、「東日本大震災と大学」というタイムリーな基調講演で開幕する。シンポジウムⅠ「現代における学生支援の課題と展望」、シンポジウムⅡ「共通教育のデザインとマネジメント」という本学会の2つの課題研究の報告に加えて、開催校企画シンポジウムとして「学生主体型授業の可能性」が議論される。先行する課題研究集会及び大会の内容を踏まえた上で、その上に新しい成果を積み上げることを意識した活発で生産的な議論が行われることを期待したい。

会長挨拶(2009年6月)(小笠原正明会長 「大学教育学会のこれまでとこれから」)

会長挨拶(2010年9月)(小笠原正明会長「ウェブサイトの全面更新にあたって」)

会長挨拶(2010年12月)(小笠原正明会長「2010年度課題研究集会「キャリア形成における大学教育-ライフサイクルの視点から」を終わって」)